毎年オンライン中継で発表を楽しみにしている、ノーベル文学賞。2017年はカズオ・イシグロが受賞とのことで、久しぶりに彼の作品を読み返しました。いえ、読み返した、というよりは初読に近いかもしれません。数年前は、その救いようのなさに、途中で読み進められなくなってしまったのです。

昨日、やっとの思いでたどり着いた最後のページにも、やはり救いはありませんでした。キャシーはその特殊な人生をおだやかに語り続け、時に少女時代のそれは叙情豊かであるけれども、光が遮られたにままおだやかに物語は終わってしまいました。残ったのは、放り出され、こころに傷を負ったわたしたちだけ。

深いため息とともに、本を閉じました。表紙には、カセットテープの装丁と「わたしを離さないで」の文字が。キャシーの声にならない叫びが、そこに。

【わたしを離さないで/カズオ・イシグロ】