きっかけはHuluで放映されていた『Olive Kitteridge』でした。その映像の世界観に魅了され、ドラマを存分に楽しんだ後は小説を…と、ページを開いたのが、ふた月は前になるでしょうか。その間、床に転がりながら、ソファにうもれながら、扉に寄りかかりながら、何度も何度も読み返していました。会う人会う人に「オリーヴ・キタリッジって知ってる?」と尋ね、「知らない」と返ってくるや否や、頼まれもしないのにその唯一無二さを執拗に演説しました。とにかく夢中でした。(いえ、夢中です。現在進行形…)


特筆すべきは、エリザベス・ストラウトが綴り出すひとのこころの機微。それがぐうの音も出ないほど凡庸で、痛いほど正確なこと。
だからこそ、さまざまなエピソードが多層的に生まれ、そして過ぎ去ってゆく中で、海の見える寒い街に暮らす人々の生活が、おおいなる親密さを持って、訴えかけてくるのです。「どうしても開かないドアがない?」「寂しさをふりほどける?」「あなたは?」と。

ドラマ『Olive Kitteridge』より

ひどく心をえぐるような言葉も、ひかりが心に灯るような触れあいも、人が生きてゆく道すがらにはたくさん落ちていて、結局のところ、どの記憶を宝物としてカバンに拾い集めてゆくかは、その人次第なのでしょう。そうやって、誰だってひとりで生まれて、そして死んでゆくのだけど、それは「孤独」という言葉ひとつでは表現できない、震えがあります。

【オリーヴ・キタリッジの生活/エリザベス・ストラウト】