ブックデザインをさせていただいた書籍『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』。愛称は「きみトリ」。出版から半年がたち、ありがたいことに重版出来もし、わたしなりにこの熱い出版プロジェクトで得た気づきについて書き留めておきたく、時系列で振り返る形式で振り返りたいと思います。

長文となりますが、きみトリファンの方や出版を目標にされている方には、読んでいただけるとうれしいです。

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ことのはじまりは一昨年の春でした。

2019年3月9日 自分でみつける社会の使い方(仮)公開編集会議
きみトリの船に乗ったのは、この会議にオンラインで参加したことがきっかけです。うかがったプロジェクト内容にワクワクして、「デザインで参加したいです」と感想とともに私からメッセージをお送りしました。

そしてさっそく
3月29日 編集ミーティング
で、顔合わせや今後のおおよそのスケジュール決めを。

少し間が空いて
7月29日 デザインミーティング
では、著者の方々にぐるり舎のアトリエまでお越しいだたき、参考図書を手に取りながら、判型やフォントなどを決めました。


ここから翌年の夏まで、わたしは待機となりました。ごくたまにメッセージのやりとりはあったものの、実際に手をうごかしたり打ち合わせをしたりというような時間はありません。

今思えば、この待機期間がとても大切でした。「スケジュールからは遅れてるけど、何か理由があるのだろう」「わたしには見えないだけで、今はみなさん畑を耕している段階なのだろう」と思っていたので、わたし自身も土壌を豊かにしようと試みられたからです。

具体的にやっていたことは
・関連図書を読む
・参考になりそうなデザインにアンテナを張っておく
・著者の発言(HP、Blog 、SNSなど)をできるだけチェックして、人柄や好みなどを自分なりに理解する
というありきたりなことでした。3番目については知らないでいた方がよいケースもあると思いますが、今回は著者の代わりに本をデザインする姿勢でいたので、「まわりが思うその人らしさ」や「著者がまわりにどう思われたいと考えているか」は、とても重要だと考えていました。

参考書籍の一部。『弁護士秘伝!教師もできるいじめ予防授業』は『きみトリ』いじめ予防のトリセツで対談を引き受けてくださった真下麻里子さんの著書です。

世の中の様々なプロジェクトには進行表があり、特に自分たち発信のプロジェクトを進めるためには”締め切り”を設けることがとても大切です。けれど、人間なのでその通りには進まないことも多々ありますよね。その進行表通りではない、自分には動きが伝わってこない空白の時間にどれだけ相手を信頼できるかがチームづくりの肝なのではないかと思っています。(もちろん進行管理は大切ですけどね!)


さて、2020年4月ごろには制作チームの体制がおおよそ固まり、下読みサポーターさんの協力で原稿は第2稿まで進んでいました。

そしてその後、
7月初め わたしの手元に原稿(第3稿)が届きはじめ、本格的なデザインワークがスタート
7月23日 クラウドファンディング用に表紙イメージに近いデザインが必要となり、表紙のデザインワークがスタート
8月8日 クラウドファンディングスタート
8月16日 クラウドファンディング説明会#2にデザイン担当として布留川も参加
8月18日 原稿先読み企画スタート(クラウドファンディングサイトにて)
8月26日 初校アップ
8月31日 クラウドファンディング終了(411名もの方にご支援いただきました!ありがとうございました!)
10月13日 2校アップ・試刷
11月20日 3校アップ・本番印刷
というスケジュールで、出版まで駆け抜けました。

クラウドファンディング期間は著者の方々のパワーはそちらに大きく向けていただき、その裏側で編集の八田さんと私で、どんどんと初校をつくっていきました。

ですが、初校と2校の間に1ヶ月以上の間が空いたことから伝わるように、ここで大幅な原稿の差し替えがありました。これが本づくりのおもしろいところ。著者・編集・校正が「これで完璧!」と判断した原稿でも、デザインの中に落とし込むと「なにかが違う…」ということが生まれるのです。これはデザインのなせる技で、組版されると原稿をぐっと客観的に見れるようになるので、原稿で使っていた自分たちの内側だけで通じていた言葉・言い回しなどに違和感がうまれるのだと思います。さらに今回は、クラウドファンディングという完成前に多くの方々から意見をいただける貴重な過程を経たため、その経験も原稿に反映したいという気持ちもうまれていました。初校のタイミングで”本のようなもの”ができたことに喜ぶだけではなくて、生じた違和感と丁寧に向き合うことがとても大切でした。大幅な変更を理解し、取りまとめ、スケジュールを引き直してくださった八田さんの尽力には感謝してもしきれません。

重版の際の束見本。第2版でもさらなるアップデートを重ねました。

そして、クラウドファンディング後に出版社さんからお声がけがあり、自費出版の予定が株式会社三恵社さんから出版させていただけることになったことも大きなターニングポイントでした。印刷、発送、在庫管理などなどの”物理的な本”の取り扱いをプロフェッショナルに担っていただけたことで、わたしだけでなく、著者の方々・制作メンバーが大きな安心を得られたことは言うまでもありません。

※出版社からの刊行になりましたが、本制作に関わる編集やデザイン、クラウドファンディング分の印刷と発送費用はみなさんにサポートいただいた資金で行いました。

また、9月半ばにわたしが急遽入院となり安静にしている必要があったため、2校以降の作業は組版を杉本和歳さん(タイラーデザイン事務所)、イラストを瀧口希望さん(瀧口希望デザイン事務所)に引き継いでいただきました。最後の最後まで自分の手でやり遂げられなかったことは残念でしたが、今は「きみトリ船に乗るメンバーが増えたことは喜ばしいこと!」と思っています。

瀧口さんにつくっていただいたキャラクター”きみトリさん”は、その後別の場でも生き生きと輝いてくれています。


昨年夏のクラウドファンディング説明会#2のアーカイブ動画を見返すと、わたしは「本は何度でも出会えて、出会い直せて、読むたびに新しい発見や、前に読んだ時と違う自分に気づかせてもらえたりして、そういう本は人生のお守りになる。『きみトリ』もそうゆう本にしたい。そうゆう本になるんだ。」と話しています。

『きみトリ』を迎えてくださったみなさん。お手元にあるその本には、あなたの人生のちいさな灯火となるような祈りを込めてあります。受け取っていただけると、とてもうれしいです。


『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』

著者:稲葉麻由美・高橋ライチ・舟之川聖子
発行:株式会社 三恵社

制作チーム
編集:八田吏
校正:佐々木彩子・佐藤里愛
デザイン:布留川真紀・杉本和歳
イラスト:瀧口希望
クラウドファンディング:本橋祈