喫茶店/リノベーション/2020

30年ほど前から使われずに眠っていた築111年の小ぶりな蔵を、自家焙煎の喫茶店として継ぐための改修です。限りある空間の中に、喫茶空間・吹抜・半屋外空間など、様々な性質の場をバランスよく配しています。

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「ぜんまい式建築」

辻珈琲が再び明かりを灯したのは、少しずつ空き店舗が増えている商店街の一角に佇む、築111年の小ぶりな蔵。店主はもともと歩いてすぐのところで旧・辻珈琲を営まれていたので、その確かな経験に裏打ちされた要望は明確で、設計はそれらを整理整頓し、あるべき形とつながりと寸法を与えたにすぎません。

小さな面積の建物でありながら、あえて店舗面積を削ってまで半屋外空間をつくったのは、店主のアイディア。ファサードに奥行きがうまれることで、室内により安定した空気が流れるようになりました。また、一歩引いたところからこの街を見守り続けようという店主の姿勢がにじみ出ているのも好ましく感じます。

構造材の交換・補強に加え、過去の改修で覆い隠されていた柱・梁や漆喰壁をあらわしにしたので、新旧の材料がひとつながりの空間の中で調和するように設計しました。劣化していた水まわりと電気設備は使い勝手がよいように一新させ、古い建物ならではの手間は愛しつつも、できるかぎり日々の営業のストレスを取り除いています。

だいぶお年寄りでそれなりに傷んでいるこの建物を、今このタイミングで手を入れるべきかにあたっては、長く岡山・広島地域で歴史ある建物と向き合われてきた株式会社ココロエ一級建築士事務所の片岡八重子さんに背中を押していただきました。また、ホーム株式会社の職人さん方のたしかな技術で、難しい修繕箇所を美しく安全に納めていただきました。

古い建物を、時計をオーバーホールするようにリセットするのではなく、日々手巻きのぜんまいを巻いて、時には油を差すように命を吹き込み継いでゆく。今回の改修工事を通して実現したのは、そんな”ぜんまい式”の建築と人とのつきあい方です。


辻珈琲

施工:ホーム株式会社
設計監理:一級建築士事務所ぐるり舎

構造:木造
規模:地上2階

仕上げ
床:既存モルタル床あらわし
壁:漆喰仕上げ・塗装仕上げ 
天井:既存床組あらわし・塗装仕上げ

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